ここ数年、相続税の節税対策と称して分譲タワーマンションの戸室を購入するという手法がもてはやされてきましたが、ここへきて、この手法に国税庁が監視の目を強めています。
相続税の計算上、分譲マンションの評価額は土地と家屋(戸室)部分に分けて評価します。
まずは土地ですが、一戸建てや賃貸アパートを持っていた場合、その敷地全体の評価額が相続税の課税対象となるのに対し、分譲マンションを持っていた場合は、マンションの敷地全体の評価額を各住戸の総床面積に占める自分の戸室の床面積で按分したものが相続税の課税対象となります。総戸数が多ければ多いほど1戸あたりの土地持分は小さくなりますから、かなり地価の高い地域にあるマンションであっても、各自の土地評価額は安くなるのです。つまり、最も土地評価額が低くなるのは、総戸数の多いタワーマンションだと言えるでしょう。
また、家屋(各戸室)部分の相続税評価額は固定資産税評価と同額です。通常の市場取引においては、高層階ほど「眺望」などが価額に反映されるため取引価額は高額となりますが、相続税評価額には「眺望」は一切関係ありません。従って、同じマンションで間取りや広さが同じであれば、市場価額3,000万円の低層階も1億円の高層階も、相続税評価額はまったく同額となります。これは、高層階ほど、市場価額と相続税評価額との間に大きな乖離(価額差)が生まれるということを意味します。
この乖離が大きければ大きいほど、それだけ財産が減ったのと同じことで、それが相続税の大幅な節税に繋がるのです。そういう効果を狙って、相続税対策としてタワーマンションを購入する富裕層がここ数年かなり増えてきました。これは、全国各地の税理士、金融機関、不動産販売会社などの相続をとりまく専門家が、タワーマンションを使った節税プランを相続対策セミナーやお客様との個別面談の場や書籍の中でかなり積極的に紹介してきたからでしょう。
実際にタワーマンションを購入したお客様の中には、相続発生後に「用済み」とばかりにすぐ売却して現金化するケースもあるようです。しかし、行き過ぎた対策はやはり危険です。不動産の相続税評価は原則として国税庁が出している財産評価基本通達により評価すべきなのですが、特別の事情がある場合は他の合理的な評価方法によることが許されています。つまり、国税庁の通達に従って算出したタワーマンションの評価額が税務署に否認され、もっと高い評価額が採用されることが理論上あり得るのです。実際の事案でも、亡くなる1ヶ月前にタワーマンションを3億円弱で購入し、通達に従って相続税評価額を約6,000万円(購入価格の約20%)で申告をして、しかも申告後(亡くなった翌年)に購入価格とほぼ同額で売却したことで当局と争いとなったものがあり、購入価格を相続税評価額とする旨の採決が出されたことがあります。
国税庁は、このようなタワーマンションを利用した過度の節税が増えている事態を問題視し、先頃、ついに全国の国税局に対して監視強化するよう指示を出したということです。今後は、相続税評価額と市場価額の差が大きい物件で、相続後すぐに売却されたようなケースなどについては、行き過ぎた節税とみなされて市場価額に引き戻して追徴課税される可能性があります。ただし、現時点ではどのようなケースが「行き過ぎ」とみなされるかの具体的な判断基準は明らかにされていません。今後の国税庁の出方に注目していきましょう。